[サッカー]
W杯④~伝統と革新の狭間で~
岩間翔吾 = 文
text by IWAMA Shougo
W杯本大会参加32カ国の中で、直前合宿・強化試合を通して一番状態の良いチームはどこか?
私なら迷わず「オランダ代表」と答える、それぐらいチームは上り調子だ。
特にサイド攻撃が機能していて、直前の3試合で11得点と手がつけられない。
このサイド攻撃、オランダの「4-3-3」なるフォーメーションと大きく関係がある。
ウイングというサイドのFWが大きく開いて攻撃を仕掛けるのが特徴だ。サイドは中央と違って人が少なくスペースが空きがちなため、攻撃を組み立てやすい。その利点を生かすためのポジションがウイングであり、そのためのシステムとも言える。
これは、クライフ時代にフィールドの全面を使って美しいサッカーを世界に披露して以来伝統的に使われてきたフォーメーションで、国内屈指の強豪クラブであるアヤックスが育成年代からこのシステムでのサッカーを構築している。
また流行に流されずこのシステムに合った選手を育成してきたために、世界的ウイングを多く輩出してきた歴史がある。
今回でその系譜を色濃くなぞる選手を挙げるなら、アリエン・ロッベンということになるだろう。
縦への突破・スピード・得点に絡む動きは世界でも有数のものがあり、今回のオランダ代表の攻撃のキーマンとして名前が上がる。アヤックスに所属した経験がないが、オランダの伝統を受け継ぐ存在である。
9番タイプをこなすことが出来るファンペルシーやカイトもこのポジションを担当することが出来る、このタイプはオランダに多くいることは心強い。
オランダのサイド攻撃がクラブシーンでも功績を上げた一方で、全く別の部分でサッカーは進化していった。
例えば80年代後半のACミランが取り入れたゾーンプレス。サイドも中央と同じようにプレッシングするサッカーがこれに当たる。ミランの黄金期によってゾーンディフェンスが世界中に広まることで、ウイングの需要は減っていった。
この流れの中でオランダは世界のサッカーの流れの中で良いところを取り入れようとする動きを見せた、あくまで「4-3-3」というアイデンティティを残しながら。
中盤、つまりMFゾーンの「3」にサイドへの展開力を求めた。
ゾーンディフェンスが流行したとはいえ依然としてサイドの方がスペースは空いていたため、あくまでウイングにこだわりは見せた。しかし勝つためにチューンナップの必要性を感じ、行きついた答えがもう一列下がった選手の改良だったのだ。
元々テクニカルな選手を輩出してきたオランダは、10番タイプの育成に成功する。
その象徴がウェズレイ・スナイデルだろう。
両足から放たれる正確なフィードとミドルシュートはオランダのワイド攻撃を機能的にしている。今シーズンはクラブでも世界一を勝ち取っていて、モチベーションは非常に高い。
同様の役割をこなすファンデルファールトも10番タイプの選手にあたる。
こうしてオランダは上手く「伝統」に「革新」の要素を混ぜ込んで、今大会の優勝を狙っている。
しかし、良き伝統ばかりが受け継がれているわけではない。
悪しき伝統、それは内紛にある。
上記の通り、オランダは得点を取る形を世界で一番確立できているチームであり常に優勝候補の一角に名を連ねながら、主なタイトルは88年の欧州選手権しかない。
上位に勝ち上がるものの、必ず内部分裂を起こし敗退してきた。
今回も直前合宿でファンペルシーがBIG4(ロッベン・ファンデルファールト・スナイデル・ファンペルシー)の同時起用を監督に訴えている。
確かに違いを作る能力に関しては非の打ちどころがない4人ではあるが、守備や効率の面を考えると個人的には否定的である。
攻撃的な気質・国民性がこの国のサッカーの発展と密接に関係してきたことは認める。しかし、内紛という自滅への道を辿った歴史とも戦わなければならないのもまた事実である。
ファンマルバイク監督の手綱捌きも優勝の大事な条件に入ってくるだろう。
また近年では、ビッグコンペディションで、なぜか必ず「死のグループ」に配されてきたために、グループリーグからトップギアで臨んだ結果、大会後半で息切れしてきたという面も見逃せない。
幸い今回は比較的楽なグループに入ったが、大会の入り方として状態が良すぎるというのは後半に影響が出ないかという懸念もある。
自滅という悪しき「伝統」、そこの部分に「革新」という名のメスが入った時、オランイェは「美しく勝ち続ける」という新たなサッカーを見せてくれるだろう。

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